そこで以前(せん)より、本なら熟読。
そこで以前より、人には丁寧。
テムポ正しき散歩をなして
麦稈真田(ばくかんさなだ)を敬虔に編み――
まるでこれでは、玩具の兵隊、
まるでこれでは、毎日、日曜。
神社の日向を、ゆるゆる歩み、
知人に遇へば、につこり致し、
飴売爺々と、仲よしになり、
鳩に豆なぞ、パラパラ撒いて、
まぶしくなつたら、日蔭に這入り、
そこで地面や草木を見直す。
苔はまことに、ひんやりいたし、
いはうやうなき、今日の麗日。
参詣人等もぞろぞろ歩き、
わたしは、なんにも腹が立たない。
(まことに人生、一瞬の夢、
ゴム風船の、美しさかな。)
空に昇つて、光つて、消えて――
やあ、今日は、御機嫌いかが。
(中略)
ではみなさん、
喜び過ぎず悲しみ過ぎず、
テムポ正しく、握手をしませう。
つまり、我等に欠けてるものは、
実直なんぞと、心得まして。
ハイ、ではみなさん、ハイ、御一緒に――
テムポ正しく、握手をしませう。
------------------------------中原中也 詩集「在りし日の歌」より「春日狂想」から引用
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