June 18, 2009

野ざらしの風颯々と



露のいのち


待ちやれ待ちやれ、その手は元へもどしやんせ。無殘な事をなされまい。その手の指の先にても、これこの露にさはるなら、たちまち零(お)ちて消えますぞえ。


吹けば散る、散るこそ花の生命とは悟つたやうな人の言ひごと。この露は何とせう。咲きもせず散りもせず。ゆふべむすんでけさは消る。


草の葉末に唯だひとよ。かりのふしどをたのみても。さて美(あま)い夢一つ、見るでもなし。野ざらしの風颯々と。吹きわたるなかに何がたのしくて。


結びし前はいかなりし。消えての後はいかならむ。ゆふべとけさのこの間(ひま)も。うれひの種となりしかや。待ちやれと言つたはあやまち。とく/\消してたまはれや。


---------------------------------------北村透谷「露のいのち」より

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