June 28, 2009

動物園のこと

文鳥はこの華奢な一本の細い足に総身を託して黙然として、籠の中に片づいている。
---------------------------夏目漱石「文鳥」より引用

先日、動物園へ行った。
動物園へ行こうと母と妹が言い出したのだった。

動物がたくさんいた。
よくよく考えると、ライオンだとかきりんだとか象だとかが、沖縄にいるということはかなり不自然なことだ。
動 物園というのは、絵本にもたくさん出てくるし、実際も遠足なり家族でなり行くものだから、動物園にはライオンや象がいるものだと疑いもしないしそのことを 不思議にも思っていなかったし、つまり動物園というものをごく自然に、自然すぎるほどに受け容れてきていて。全然珍しくないと思っていたふしがあった。
興味深い場所である。超不自然だ。それが面白い。
皆、それぞれの檻の中に、黙然として片付いていた。

動物園というのはものがなしい。動物たちの諦めがありありと見て取れる。
カンガルーの目は確かに物思いにふけるそれであり、餌箱の中に失われた音符を探す疲れた音楽家さながらであった(参考:村上春樹「カンガルー日和」)。
動物はいい。


勤めていた会社に、動物園好きの上司がいた。
彼 は土日の度に各地の動物園や水族館に出かけていき、将来は動物園経営がやりたいと言っていた。旭山動物園をべた褒めした。土日に撮った写真を、21時くら いになると別の用のついでというわけでもなく、見せに来たりした。そこでリアクションをとると、満足そうに(たまに私の席にあるお菓子を無断で持っていき ながら)自分の席に帰っていくのだった。
でも全然ファンシーさのかけらもなく、基本的には無表情で、「そう言い切れる?」「Why?」を繰り返したり、お時間ある時にレビューお願いしますと言うと「時間?ない。」といった捨て台詞を残していくような、人だ。

その上司に、始発待ちのファーストキッチンで、なぜ動物園が好きなのかと質問したことがある。すると、動物が好きだから、と返ってきた。
どうして動物が好きなんですか、と聞くと、動物は喋らないから、と答えた。
それって人間が嫌いって言ってるのだろうか、と思った。なんだか、そう聞こえた。

この話を会社にいた小児科医の先生とご飯を食べに行った際話したら、私も小児科がいいのは子どもが喋らないからっていうのはある、と言った。

誰しも誰しも、か。
喋らないものの方がいい、というのは。なんだかわかる気はする。言葉と沈黙。

そんな上司も3末で会社を辞めたらしい。お会いすることはあるのだろうか。会えたらもう少し、動物園の話を聞きたいけど。

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